僕は、読書と映画とゲームが好きです。
どれも、時間がかかります。
小説は1冊読み終えるのに10時間前後。映画は2時間ほどですが、できるだけ中断せず、最初から最後まで通して観たいと思っています。
ゲームはもっと危険です。
少しずつ進めるということができません。新しいソフトを始めたら、あらゆる余暇時間をつぎ込みます。それでも足りなければ睡眠時間まで削り、クリアという料金所へ向かって、アウトバーンを爆走するポルシェも驚く勢いで突き進みます。
仕事と子育てをしながら楽しむには、どれも重すぎる趣味でした。
趣味の時間はない。でもジムには行かなければならない
子供が生まれ、自由に使える時間は少しずつ減っていきました。
映画を観る時間はない。
小説を読む時間もない。
ゲームを始めたら、翌日の生活が壊れる。
しかし、ジムには行かなければなりません。
健康のためです。
それに、月会費も払っています。
そもそも僕は、「健康のために始めたジムで、10年間ずっと疲れている」という前科があります。

それでも懲りずに、「今度は趣味も同時に片付けよう」と考えました。
行かなければ太るかもしれない。筋肉が落ちて、ヒョロガリになるかもしれない。そして何より、月会費の元が取れません。
趣味の時間は削れても、ジムへ行く義務だけは、生活の中にコンクリートで固定されていました。

趣味をジムへ持ち込めばいい
ある日、完璧な解決策を思いつきました。
ジムで趣味も同時に済ませればいいのです。
ランニングマシンで歩きながら映画を観る。
筋トレをしながらオーディオブックAudibleで本を「聴く」。
運動と趣味が同時に進む。
1時間で2時間分の成果が得られる、時間の二毛作です。
これなら忙しい父親でも、健康と教養と娯楽を一度に手に入れられます。
僕はまたしても、人生を攻略した気になっていました。
Audibleを聴くと、何回上げたかわからない
筋トレ中はAudibleを聴くことにしました。
小説や歴史の本を聴きながら筋肉も鍛えられる。これも完璧です。
しかし、話に集中すると、ダンベルを何回上げたかわからなくなります。
7回だったか。
9回だったか。
まだ4回だった気もします。
回数を数えるためにAudibleを止め、セットが終わると再生します。
次のセットが始まると、また止めます。
その結果、筋トレにも本にも集中できません。
聴取時間だけは順調に伸びました。
歴史の本を何時間も聴いたはずなのに、記憶に残ったのは、カエサルがハゲを気にしていたことだけでした。

そもそも僕は、Audibleで元を取ろうと聴きすぎて、すでに耳と脳が疲れていました。
そこで名案をひらめきます。
「Audibleを聴きながら筋トレをすればいい」
頭の中ではピコーンと電球が光りました。今思えば、あれは警告灯でした。

映画を観ているのに、残り時間しか見ていない
ランニングマシンの画面にスマホを置き、映画を再生しました。
映像は見えています。
音声も聞こえています。
しかし、内容がほとんど頭に入りません。
朝のジムなので、仕事に遅れないか気になります。家族が起きていないかも気になります。
映画の登場人物が何を考えているかより、画面右下の残り時間ばかり見ていました。
あと1時間32分。
このままでは観終わらない。
再生速度を上げるべきか。今日は途中で切るべきか。それとも有酸素運動を延長するべきか。
さらに、ランニングマシンの速度や傾斜も気になります。
少し速い。
いや、遅すぎる。
傾斜1.5%は膝に悪くないだろうか。
僕は映画を観るより、マシンの設定ボタンを触っている時間の方が長くなりました。
ちなみに、映画を「消化対象」にしてしまうのは今回が初めてではありません。

ジムで最も長いのは、何を再生するか悩む時間
やがて、問題はさらに複雑になりました。
U-NEXTの割引期間終了日が迫っています。
Audibleの聴き放題終了日も迫っています。
ジムの月間利用回数も目標に達していません。
今この瞬間、何を優先するべきか。
U-NEXTで尺が短い映画を観るか。
Audibleで残り時間の短い本を聴くか。
それとも、何も再生せず筋トレに集中するか。
筋トレに集中すると、サブスクの元が取れません。
サブスクを消化すると、筋トレの質が落ちます。
ジムでは、トレーニングしている時間より、「今日は何を消化するか」で悩んでいる時間の方が長くなりました。
一応マシンからは離れて悩んでいますが、そろそろスタッフから「長時間のスマホ利用はやめてください」と注意されるかもしれません。
休日は趣味を楽しむ日ではなくなった
映画の残り時間。
Audibleの残り時間。
ジムの利用回数。
僕の休日は、趣味を楽しむ日ではなく、複数サービスの在庫処分日になりました。
それでもゲームだけは、ジムで同時に済ませられません。
そして一度始めると止まりません。
明け方までプレイして寝坊し、ワンオペ状態になった妻は不機嫌になります。
子供たちからは、
「パパ、大人なのにゲームに夢中になったの?」
と笑われました。
父親としての威厳は、マサラタウンを出発した直後のヒトカゲ以下になりました。
全部進んだ。でも何も楽しめなかった
映画は観ました。
Audibleも聴きました。
ジムにも行きました。
ゲームも進めました。
予定表だけを見れば、充実した休日です。
しかし、映画の内容は覚えていません。
本もカエサルの頭部しか残っていません。
筋トレでは何回上げたのかわからず、ゲームの翌日は寝不足です。
複数の趣味を同時に進めた結果、何ひとつ十分には楽しめませんでした。
残ったのは、各サービスの利用実績と疲労だけです。
時間を有効活用するために、趣味をジムへ持ち込みました。
気がつくと、趣味まで効率と期限に管理されていました。
思い返せば、ジムも、Audibleも、U-NEXTも、原因はサービスではありませんでした。全部、「元を取りたい僕」が勝手に暴走しただけです。
やっぱり、9割でやめておけばよかった。

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